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日本地図をひろげて、関ケ原にコンパスの脚を固定してみるとわかることであるが、当地から青森と鹿児島までの距離が、ほぼ同じなのだ。鈴鹿山系と伊吹山系にかこまれた、このせまい盆地は、日本のほぼ中央なのである。 関ケ原は、現在でいうと岐阜県であるが、戦国時代、当県も含めて中京地区から、天下盗り大名が三人も連続して登場した。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三人衆である。 これほど傑出した人物がなぜ同じ地域から輩出したのか。理由はいろいろ考えられるだろう。京都に近いという地理的条件のよさ。三人の連携プレーがよかったこと。しかし、最大の理由は、三人の出身地の「豆みそ」にあったと筆者は推測している。 愛知県、岐阜県、三重県の三県は、他の県にはない豆100パーセントでみそを仕込み発酵熟成させて何百年間も食べ続けてきた。他の県は米こうじや麦こうじを使用して大豆を発酵させるのに、この三県だけはこうじも大豆で作ったものを用いてきた。 日本のみそとしては、もっとも古いタイプに属するものであるが、そのかわり、大豆の特性がフルに発揮されて、栄養的に特別な効果を生む。 米こうじのいらない、大豆だけのみそには、アミノ酸化されたタンパク質はもちろん、健脳効果の強い天然グルタミン酸やレシチン、ビタミンEが多いから、脳細胞の活性化に役立ち、すぐれた知能を育てる上で効果的なのだ。 さらに豆みそには、男性の精子の60パーセントを占めるアルギニンというアミノ酸が、多量に含まれている。ある大手の食品メーカーが、「男には男の武器がある」というコマーシャルで、強精ドリンクを発売しているが、その主成分がアルギニン。アルギニンをとっ続けていると、男性機能が強くなるだけでなく、行動的になって男っぽい人間に自然に変化していく。 時代によっては、アルギニン含有量の多い食べものは、決断の切れ味をシャープにし、作戦を大胆にする作用もする。したがって、戦国乱世のように殺ばつとした時代には豆みその風土からは、英雄や策士が生れやすいのだ。それを実証したのが、織田信長に豊臣秀吉、そして徳川家康である。ここでいう「豆みそ」は、三河みそ、あるいは三州みそ、赤だしであるのはいうまでもない。
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料理史、あるいは珍味史的にみれば、およそ家康ほど面白味の少ない人物もないだろう。 「千畳敷き万畳敷きの家を持っていても、寝るところは一畳である。また、前に八珍の美食を盛大に並べてみても、口にかなうものは二、三種にすぎない。天下の主といっても、つづまるところは、ただ一飯の他は用がない」。 これは家康がいったことばで、『提醐紀談』という本に出ている。 つまり、ご馳走や美味は無用だと公言してはばからない。とはいっても、当時から魚貝の宝庫といわれた三河湾をひかえて育っているだけに、魚や貝類はごく普通に食べている。とくに好物だったのが鯛で、漁民も見事な鯛がとれると折にふれて献上した。 前項でもふれたが、「三河みそ」は、いってみればみそ中の″珍味″であり、家康もこのみそだけは生涯を通してだいじにした。そして、主食は「麦めし」一筋と決め、他には見向きもしない。 「麦めし」は、米の節約になるだけでなく、健康にも非常によい。米や麦の胚芽、みそなどの大豆製品には、若返りビタミンといわれるビタミンEがたっぷり含まれていて、血管や細胞の老化を防ぐ。ボケ、つまり、脳の老化の原因である「過酸化脂質」を減少させる力もある。 また、麦めしの「麦」には、第五の栄養素として注目されているダイエタリー・ファイバー(食物センイ)が多く、腸内の発ガン物質やその他の有害物質を吸着して体外に排出したり、ビタミンを合成するなど、これまた健康の強化と維持に役立っている。 信長は本能寺で横死し、秀吉は子孫にめぐまれないまま老衰死してしまった。 「織田がつき、羽柴がこねし天下餅、寝ているままで食うが徳川」という狂歌の通りに、最後は家康の天下となった。 アメリカの栄養学者や医師たちは、口をそろえて「日本人は、ガンや成人病の予防には理想的な食事システムを創りあげた」と、伝統的な「和食」を絶賛している。いまから400年前、アメリカ人が注目している″伝統的な和食"で天下盗りに成功したのが家康なのである。 食文化史的にみれば、あまり興味のわかない人物であるが家康は現代日本に大きなヒントを与えている。たしかに、日本人は、世界一の長寿民族(男性七十四才、女性八十才)になったが、食生活の洋風化によって「高脂肪」、「高カロリー」の食事となり、成人病が急増している。家康の麦めしは現代でいったら、同じ高センイ食品という意味では「海藻」だと思う。「海藻珍味」の開発に早急な注力がのぞまれる。